【書評・感想】早見和真著『アルプス席の母』|甲子園の裏に蠢く親たちのリアル

小説

高校野球、甲子園――。 球児たちが汗と涙を流し、白球を追う姿は美しく、毎年多くの感動を生みますよね。

でも、ちょっと待ってください。 あの華やかな「アルプス席」で応援している保護者たちの胸の内を、私たちは本当に入り口まで知っているでしょうか?

今回ご紹介するのは、『ぼくたちの家族』や『店長がバカすぎて』でおなじみの実力派作家・早見和真さんの最新作『アルプス席の母』です。

正直に告白します。
読む前は「よくある感動的なスポーツ青春モノの親目線バージョンかな」なんて、少し高を括っていました。

……いや、本当に失礼いたしました。 思っていた以上に、めちゃくちゃ面白かったです。

今回は、運動部の子を持つ親御さんなら「うわ、これ分かる…!」と胃がキリキリ痛み、そうでない方も極上のエンタメミステリー・人間ドラマとして一気読みしてしまう本作の魅力を、ネタバレなしで熱く語っていきます!

『アルプス席の母』ってどんな本?(あらすじ)

まずは、本作の概要をサクッとご紹介します。

タイトルアルプス席の母
著者早見和真
出版社小学館
テーマ高校野球、強豪校の保護者会、人間関係、親の狂気と愛

ざっくりあらすじ

物語の舞台は、甲子園常連の超名門私立高校・神奈川輝翠(きすい)学院野球部。 主人公の秋山菜々子は、天才的な野球のセンスを持つ息子・航太郎のために、すべてを捧げてきた「母親」です。

息子が名門校の特待生として入学し、ホッとしたのも束の間。そこに待っていたのは、レギュラー争いよりも過酷な「保護者たちの権力闘争」でした。

  • 我が子をベンチ入りさせるための、監督へのアピール合戦
  • 保護者会(通称:婦人部)の絶対的な階級制度(ヒエラルキー)
  • 推薦組と一般入部組の間に流れる、冷ややかな溝
  • SNSでのマウンティングや、陰口、足の引っ張り合い

我が子の成功を願うあまり、狂気に囚われていく母親たち。そして菜々子自身も、その渦中に巻き込まれていき――。

本作のここが凄い!3つの深掘りポイント

私が本書を読んで「これはおススメせざるを得ない!」と思ったポイントを3つに絞って解説します。

① 「ホントにこうなんだろう」と思わせる圧倒的なリアリティ

著者の早見和真さんは、自身も強豪・桐蔭学園野球部の出身(同期には元メジャーリーガーも!)。
そのため、野球描写はもちろん、強豪校を取り巻く「空気感」の解像度が異様に高いのです。

甲子園を目指す強豪校の裏側って、本当にこんな感じなんだろうな…と思わせるリアリティが全編に満ちています。

単に「みんなで一丸となって応援しよう!」なんて綺麗な世界ではありません。

  • 「あの子がエラーすれば、うちの子にチャンスが回ってくるのに」
  • 「なんであんな子が背番号をもらえるの?」

そんな、口が裂けても他人には言えない、でも人間の本性として確実に存在する「黒い感情」が、生々しく描かれています。
綺麗事だけではないからこそ、物語にグイグイ引き込まれてしまうのです。

② 運動部の子を持つ親なら悶絶必至!栄光の影にある「ドロドロ感」

この記事を読んでくださっている方の中に、お子さんが少年野球、サッカー、中学・高校の部活動に励んでいる(あるいは励んでいた)親御さんはいますか?

もしそうなら、この本は「取扱注意」です(笑)。共感しすぎて胃が痛くなるかもしれません。

子どもがスポーツをやっていると、どうしても親もコミュニティに属さざるを得ませんよね。
お茶当番、車出し、遠征の手配……。
それだけでも大変なのに、そこに「レギュラー争い」というシビアな現実が絡んでくると、親たちの関係性は一気に複雑化します。

「子ども同士は仲が良いのに、親のせいで気まずくなる」 「レギュラーの親が、補欠の親に無意識に放つマウンティング発言」

本作で描かれるこれらのエピソードは、まさに「あるある」の宝庫。
栄光に輝く甲子園のアルプス席の裏には、こうした親たちの血のにじむような(そして時に醜い)暗闘があるのだと突きつけられます。
部活ママ・パパなら、共感と恐怖でページをめくる手が止まらなくなるはずです。

③ 構成の見事さと、圧倒的な読みやすさ

3000字近くある長編ですが、とにかく読みやすくて構成が素晴らしいです。

物語は単なる「お仕事モノ」や「泥沼愛憎劇」に留まりません。
章を追うごとに、保護者会のパワーバランスが変化し、ある種の「サスペンス」のような緊張感が漂い始めます。

伏線の回収も見事で、「え、そこが繋がるの!?」という驚きもしっかり用意されています。
著者の筆力が抜群なので、普段あまり小説を読まないという方でも、一瞬で引き込まれて最後までノンストップで読めてしまう名作です。

なぜ親たちはここまで「狂う」のか?

本作を読み終えて深く考えさせられたのは、「なぜ母親(父親)たちは、我が子の野球にここまで人生を賭け、狂ってしまうのか」という点です。

作中の母親たちは、一見すると自己中心的に見えるかもしれません。
しかし、彼女たちの根本にあるのは、紛れもない「子どもへの愛」なんですよね。

  • 「この子の努力を報わらせてあげたい」
  • 「自分がサポートをサボったせいで、この子の未来を潰したくない」

その純粋な愛が、強豪校という「異常な環境」と「他人の目」に晒されることで、少しずつ歪んでいってしまう。
これは決して他人事ではありません。
私自身、もし我が子が同じ環境に置かれたら、菜々子たちと同じように狂わないと言い切れるだろうか……?
そんな、心地よい恐怖を味わえるのも、この小説の深い魅力です。

こんな人におすすめ!

『アルプス席の母』は、以下のような方に特におすすめです!

  • 子どもが少年野球や運動部の部活に入っている親御さん
  • 「とにかく一気読みできる面白い小説はない?」と探している方
  • 甲子園という舞台の「光と影」を覗いてみたい方

逆に、「スポーツ特有の爽やかな感動だけを求めている人」には、少し刺激が強すぎるかもしれません(笑)。
ですが、その刺激こそが癖になる一冊です。

まとめ:思っていた以上の大傑作!今すぐ読むべし

最初は「よくある野球小説かな」と軽い気持ちで手に取りましたが、思っていた以上に面白く、良い意味で裏切られた大満足の読書体験になりました。

華やかな甲子園のアルプス席。
もし次にテレビや球場で高校野球を見る機会があれば、私はきっと、応援している保護者の方々の表情を今までとは違う目で見つめてしまうと思います。

一見の価値あり、いや、一読の価値ありの超おススメ本です!
気になった方は、ぜひ本屋さんに走るか、電子書籍でポチってみてください。

以上、『アルプス席の母』の読書感想・書評ブログでした!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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