本屋大賞受賞作として大きな話題を呼び、多くの読者の価値観を揺さぶっている朝井リョウさんの最新作『イン・ザ・メガチャーチ』。
「早く読まねば……」と思いつつ、ようやくページをめくったのですが、読み終わった今、心地よい感動ではなく「とんでもないものを読んでしまった……」という、背筋がゾクゾクするような冷や汗をかいています。
現代社会において「生きがい」や「美徳」として全肯定されている「推し活」。
しかし本作は、そのキラキラしたパッケージを容赦なく剥ぎ取り、その奥にある人間の脆さと、冷徹な社会の仕組みをこれでもかと鋭く抉り出しています。
今回は、とある「推し」を持つ一人のファンとしての私自身の葛藤も交えながら、この衝撃作の魅力をネタバレなしで熱く語り尽くします!
『イン・ザ・メガチャーチ』の作品概要・ざっくりあらすじ
本作は、現代社会のトレンドや人間の自意識を描かせたら右に出る者はいない朝井リョウさんが、「推し活」をテーマに据えて描いた重厚な群像劇です。
物語は、立場の全く異なる3人の登場人物の視点で進んでいきます。
3人の視点で描かれる「推し活」のリアル
- 【仕掛ける側の男性】 「推し活」を純粋なエンタメではなく、巨大な利益を生む「ビジネス」として捉え、そのシステムに参画していく男性。
- 【熱狂していく娘の視点】 これまでオタク文化や推し活には全く縁がなかったものの、とあるアイドルグループに突如として猛烈に熱狂し始める娘。自分の世界のすべてが「推し」で染まっていく高揚感と、それに伴う危うさを体現していく。
- 【絶望の淵に立つ女性】 ある一人の俳優を心の支えとして「推し活」に全てを捧げていたが、その俳優が突然この世を去ってしまい、生きる意味を失った女性。
それぞれがそれぞれの切実な立場で「推し活」に関わり、時に翻弄され、時に救われながら、悲しくも切ない人生の軌跡を追っていく物語です。
タイトルに隠された意味
タイトルにある「メガチャーチ」とは、一般的に「巨大な会堂を持つ、大規模なキリスト教の教会」を指す言葉です。
読み進めていくうちに、「なぜこのタイトルなのか」のパズルがピタッとはまる瞬間が訪れるのですが、その時の鳥肌といったらありません。
私が本作で一番ゾクッとしたのは、「推しを亡くして絶望する女性」の描写でした。
彼女はあまりにも推し活に没頭するあまり、完全に周りが見えない状態――いわゆる「視野狭窄(しやきょうさく)」に陥ってしまいます。
推しに関することなら、どんな小さなことでも、どんな突飛なことでも信じ込んでしまう。
その狂信的な姿を見たとき、私は強く思わされました。
「あぁ、こうやって人間は盲信し、ここから“宗教”が始まっていくんだ」
過剰にのめり込んでしまうファンの心理と、その熱狂をさらに加速させ、お金を落とさせ続ける世の中の仕組み。
これらが綺麗に噛み合った時、私たちは「メガチャーチ(巨大教会)」の中で熱狂する信者そのものになってしまう。
他人事とは思えないリアルな恐怖が、そこにはありました。
身近にある「熱狂」と「高騰するチケット」への複雑な本音
本書を読んでからというもの、私は自分の周りにある「熱狂」に対する見方がガラリと変わってしまいました。
実は私自身、大のバスケットボール好きで、Bリーグのチームを熱く推している身でもあります。
だからこそ、本作のテーマは胸にブ刺さりまくりました。
「選手のため」という免罪符と、冷徹なビジネス
いま、世間ではサッカーのワールドカップなどが大いに賑わっていますよね。
母数が大きいメガエンタメになると、その熱狂は「素晴らしい感動」として社会的に100%認められます。
でも、その裏にあるのは冷徹なビジネスです。
私が愛するバスケの世界でも、一番いい席は数万円、時には数十万円もします。
到底自分には買えない金額ですが、これこそが「推し活ビジネス」の縮図です。
ただ、ファンとしての心理は本当に複雑で、
「このお金が選手のため、チームのためになるなら……!」 という応援したい気持ちも、痛いほどよく分かるのです。
ビジネスだと分かっていても、お布施をしたくなってしまう。
この心理こそが、本作で描かれるシステムの養分になっているのかもしれません。
観戦ハードルが上がっていく、いちファンの嘆き
バスケ界が盛り上がり、チケットが高騰していくことは、いちファンとしては「リーグやチームが大きくなっている」という嬉しさがあります。
しかしその反面、どんどん「一般の人が気軽に観戦できるハードル」が上がってしまい、古参やライト層が置いていかれる悲しさもあります。
「推しを応援したい」というピュアな気持ちが、いつの間にか巨大なマネーゲームに巻き込まれ、利用されていく。
母数が大きければ大きいほど、その歪みは「感動」という言葉で隠されてしまう。
本作を読んだ後、コートを見る私の視線には、少しの冷徹さが混ざるようになってしまいました。
まとめ:『イン・ザ・メガチャーチ』はどんな人におすすめ?
『イン・ザ・メガチャーチ』は、単なる「オタクあるある小説」ではありません。
現代人が抱える孤独や、何かに依存せずにはいられない心の隙間を、冷徹かつエモーショナルに描いた傑作です。
ズバリ、こんな人におすすめ!
- 朝井リョウ作品特有の「心理描写」が好きな人
- 現在進行形で「推し活(アイドル・スポーツ・アニメ等)」に励んでいる人
- チケット高騰やグッズの多さに、ふと「疲れたな」と感じたことがある人
誰かを応援することは素晴らしい。それは間違いありません。
でも、その熱狂のハンドルを握っているのは、本当に「あなた自身」でしょうか? それとも――。
読み終わった後、自分が使っているお金と時間の意味を、きっと見つめ直したくなるはずです。


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