今回は、お正月の国民的風物詩を舞台にした池井戸潤さんの大作小説『俺たちの箱根駅伝』の読書レビューをお届けします。
実は本作、映像化(ドラマ化)が決定しています!
「これはドラマ放送前に予習しておかなければ!」と、気合いを入れて上下巻を一気に読みました。
これまで池井戸作品の映像化(『半沢直樹』や『下町ロケット』など)は何度も観て大ファンだったのですが、実は「本(原作小説)」で読むのは今回が初めて。
実際に読んでみて、もう「さすが池井戸潤……!」と唸らされるしかありませんでした。
「ドラマ向けに書かれたのでは?」と思ってしまうほど、文字からリアルな映像が脳内に浮かび上がってくる圧倒的な読みやすさ。
そして、実際の箱根駅伝を知っている人なら誰もが「あの光景だ!」と没入できる臨場感。
今回は、上巻・下巻を通して感じた興奮と、本作の見どころを熱く語っていきます!
あらすじ:記録に残らないチームの、記憶に残る戦い
本作の主人公となるのは、箱根駅伝の常連校でも、エリートランナーたちでもありません。
本選への出場を逃した大学の「予選会敗退組」の中から、個人成績上位者が集められて結成される「関東学生連合(学生連合)」です。
彼らの戦いは「オープン参加」扱い。
つまり、どれだけ速く走っても、どれだけ上位に食い込んでも、公式なチーム記録としては一切残りません。
「記録に残らない戦いに、彼らは何を懸けるのか?」
そんな葛藤を抱えたワケありの選手たちと、彼らを率いるこれまた一癖ある監督。
さらに、秒単位の狂いも許されない過酷な生中継の現場で、己のプライドを懸けてカメラを回し続ける「大日テレビ」のテレビマンたち。
「走る側」と「中継する側」、それぞれの意地とプライドが重なり合い、物語は冬の箱根路へと突き進んでいきます。
バラバラのピースが形を成していく、興奮のプロローグ
初めての池井戸原作、その筆力に脱帽!
上巻を読み始めてまず驚いたのが、その圧倒的な読みやすさです。
先述の通り、私は池井戸作品を本で読むのが初めてだったのですが、情景描写やテンポが秀逸で、まるで上質なドラマの第1話を観ているかのように頭の中で勝手に「画」が組み立てられていきました。
登場人物たちのセリフや表情、箱根特有の冷たい空気感までもが五感に伝わってくるような文章。活字に慣れていない人でも、一瞬で物語の現場へワープさせられるような臨場感に包まれます。
「寄せ集め」から「チーム」へ
上巻のメインは、やはり「学生連合」というバラバラのピースが、少しずつ一つの形になっていく過程です。
所属する大学も違えば、ここへ来るまでの背景も違う。
どこか冷めていたり、諦めていたり、プライドが邪魔をしていたりする選手たちが、少しずつ本気になっていく姿にはゾクゾクさせられます。
それと同時に描かれる、テレビ中継を支えるスタッフたちのプロフェッショナルなドラマ。
ランナーの走りと、テレビマンたちの裏方の執念。
この2つの軸が重なり合っていくワクワク感だけで、上巻の時点で「これは絶対に下巻が面白くなる!ドラマも絶対に素晴らしいものになる!」と確信させてくれました。
ついに本番!息をのむ「下剋上」と丁寧な人間ドラマ
画面から飛び出してきたかのような、圧倒的な没入感
下巻に入ると、ついにレース本番の火蓋が切って落とされます。
ここからの疾走感は本当に凄まじい!大手町のスタート、鶴見の中継所、権太坂の急坂、そしてあの過酷な山登りの5区……。
毎年お正月にテレビで箱根駅伝を観ている人なら、「あそこか!」「あの景色だ!」と完全にシンクロできる光景が随所に散りばめられています。
「ドラマを観ているような没入感」と書きましたが、読んでいる最中は本当に頭の中でBGM(あの有名なテーマ曲)が流れてきそうなほどの臨場感でした(実際にドラマ化されるわけですが、一足先に脳内プレミア上映を楽しんだ気分です!)。
全員を応援したくなる丁寧な描写、そして「最高の嫌な奴」
下巻で感動したのは、スポットライトが当たりにくい学生連合の選手たち一人ひとりのストーリーが、本当に丁寧に描かれている点です。
「ただ走っているだけの人」が一人もいません。
それぞれに背負っているものがあり、意地があり、ドラマがあるからこそ、全員を心の底から応援したくなります。
……と、これだけなら綺麗なスポーツ感動巨編ですが、そこはさすが池井戸作品。
物語をこれでもかと盛り上げてくれる「ちゃんと嫌な奴」もしっかり登場します(笑)。
この敵役や理不尽な存在が出てくるからこそ、選手たちの「意地とプライドの下剋上」がより一層引き立ち、物語のスパイスとして最高に効いているんですよね。
最後まで波乱に満ちた展開で、一瞬も目が離せないまま、終盤には驚きの真実も明かされ……気がつけば涙目になりながらページをめくっていました。
実際の「学生連合」って、ここまでひどい扱いなの?
ここで、作品を読んでいて多くの人が少し気にかかるであろうポイントについて、一人の駅伝ファンとして考えてみたいと思います。
作中では、学生連合チームに対して、周囲の陸上関係者や世間からかなり手厳しい、あるいは冷ややかな視線や扱いを受ける描写があります。
読んでいて、「オープン参加で記録に残らないとはいえ、現実でも本当にここまでひどい扱いなのかな?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、これは「物語の下剋上感を極限まで高めるための、池井戸先生ならではの見事な演出(味付け)」だと捉えるのが自然です。
実際の箱根駅伝でも、学連選抜(現在の関東学生連合)は「オープン参加のため順位がつかない」というルールはありますが、ファンや沿道の人々は強豪校と同じように温かい声援を送りますし、彼らが上位に食い込めば「おおっ!」と大きく盛り上がります。
しかし、小説やドラマというエンターテインメントにおいて、「最初からみんなに優しく応援されているチーム」では、リベンジドラマとしての爆発力が足りなくなってしまうんですよね。
あえて「日陰の存在」「理不尽な風当たり」という逆境を強めに描写することで、彼らが牙を剥いて強豪校を追い詰めていくときの爽快感、カタルシスが何倍にも膨れ上がるわけです。
このあたりの「魅せ方」の割り切りと構成の巧みさは、さすがヒット作を連発するトップクリエイターだなと深く納得させられました。
まとめ:次のお正月の箱根駅伝が、何倍も楽しみになる一冊!
『俺たちの箱根駅伝』は、池井戸潤作品の洗礼を受けるにふさわしい、最高に熱い人間ドラマでした。
バラバラだった選手たちがタスキで繋がっていく上巻、そしてその意地が爆発する下巻。
読んだ後は清々しい感動とともに、「早くドラマが観たい!」という気持ちで胸がいっぱいになります。
そして何より、この本を読んだ後は、お正月の箱根駅伝を観るときの視線が絶対に変わります。
これまでは強豪校の優勝争いやシード権争いにばかり目が行きがちでしたが、今後は、白地に紫のタスキ(実際の関東学生連合のユニフォーム)を命懸けで繋ぐランナーたちの後ろ姿に、本作のキャラクターたちを重ね合わせて、今まで以上に熱く応援してしまうこと間違いなしです。
- 池井戸作品のドラマは好きだけど、本は読んだことがない方
- ドラマ化の前に、最高の形で予習をしておきたい方
- 毎年、なんとなく箱根駅伝を観ている方
上下巻一気読み必至の傑作です。ぜひ、彼らの「記憶に残る戦い」をその目で確かめてみてください!



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